突き詰める
こんにちは、東京で小児科医をしています、土屋宏人です。
コロナウイルスの流行以来、私が務める病院の子どもの受診数はかなり減りました。
その分ひとりひとりの患者さんに向き合う時間は増えたのかもしれません。
そうしたなかで、考えさせられることがあります。
医師になって一通り知っているし、実践しているけれど、本当にそれで良いの?ということについてです。
たとえば、聴診器の温度についてです。
何もせずのままだと聴診器は冷たいです。
胸に当てる前に手のひらで聴診器を擦って温めると患者さんが冷たくて驚くことが減るとされます。
これはほとんどの医師が知っているでしょうし、実践している方も多いと思います。
けれど、聴診器を擦っても、患者さんの胸に当てる頃には意外に冷えていることはあまり知られていないかと思います。
自分でサーモグラフィを使って実験してみました。
聴診器を普段温めている程度に擦ってみると32℃でした。
1分間ホッカイロを使ってあっためてようやく聴診器は40℃度になりましたが、患者さんの胸に当てるころには34℃になっていました。
シャワーの温度が40℃くらいということを考えると、聴診器を胸や背中に当てる際にはヒヤっとする感覚を与えてしまいます。
相手が子どもであればひんやりした感覚を嫌がって泣いてしまい、適切な聴診に差し支えることもあります。
一般に4歳以上になると以前あった出来事を覚えているとされます。
時折、病院に来ただけで泣いてしまう子がいますが、以前の診察での様々な嫌な思い出がそうさせるわけです。
子どもの診察は泣かさないことが大事というのは小児科医の誰もが知るところです。
先述のように子どもが泣いてしまうことで診察を適切に行いにくくなるからです。
嫌な記憶が植え付けられたために、来院しただけで泣いてしまうという状況は医師の診察を難しくしてしまうので、毎回の診察でいかに泣かさないように細部まで気を配れるかは重要です。
医師とてそもそも子どもを泣かしたくないですし、泣かさないことはその場のみならず、今後の診察の手助けにもなるわけです。
昔研修に行った病院の医師はホッカイロのホルダーを聴診器につけて常に温めていました。
そこまでする必要があるのかな、と当時は思っていましたが、今となればされていることの意味がわかります。
聴診器のことを例に挙げましたが、その他の所作や処置ひとつひとつで子どもに嫌な思いをいかにさせないか、小児科医として突き詰めて考えることの重要さを感じます。
また、仕事以外の場面でも突き詰めて考えられているだろうかと問うことは必要だと思います。
誰かに聞いたり、本やインターネットで見たりしたことを実践してみるのは決して悪い訳ではありませんが、できていると感じているだけではないだろうか、知った風になって満足していないだろうか、誰かを影で泣かしてはいないだろうか、と突き詰めて考えると新しい発見があるのではないかと思います。
余談ですが、飼っている文鳥にしっかり温めた聴診器を当ててみたところ、素直に心音を聴かせてくれました。
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